文化フォーラム要旨「助け合いのコミュニティ」 井上繁 常磐大学教授
去る1月28日に行われた文化フォーラムについて、その要旨をまとめました。
講演:井上 繁 常磐大学コミュニティ振興学部教授
コミュニティの種類と役割
コミュニティとは何だろうか。三種類に分けられる。一つは地縁型コミュニティ。自治会、町内会、集合住宅の管理組合などがそれで、各コミュニティに世帯単位で加盟しているのが特徴だ。もう一つはテーマ型コミュニティで、福祉や環境など特定の課題の解決を目指した組織。NPO(非営利の民間組織)が代表的で、儲け仕事ではなく地域のために活動している組織はテーマ型コミュニティだ。 ある時期までコミュニティはこの二種類だったが、電子型コミュニティが加わった。インターネットを媒介とした一種のコミュニティが成立している。ネットを通じ情報を伝え、意見を交換する。地縁型やテーマ型のコミュニティを下支えしている。 今、コミュニティが見直されてきている。東日本大震災、阪神淡路大震災では警察や消防が思うように動けなかった。電信柱が倒れ、家屋が倒壊し、道がふさがれて消防車が現場に到達できないという状態になった。いざという時に早い行動がとれるのは、被災者の周辺にいる人たちだ。あの家には高齢者が一人暮らしであるとか、生後一ヶ月の赤ちゃんが2階に寝ているとか、ふだん触れ合っている周辺の人たちは知っているので助けることができる。市役所、町村役場は物理的距離が遠いので、災害時には地縁型コミュニティの役割が大事になる。
地域教育
教育は三つある。学校教育、生涯教育、家庭教育だが、私はもう一つあると考える。それは地域教育だ。地域の方々が、地域のことを思い、地域のために、あるときは先生になり、あるときは聴講者になるといったことがもっとあっていい。これまでの経験を小学校、中学校の課外授業で活かし、地域教育の一端を担う。子供たちは地域で育てるという考えを強める必要がある。 街づくりは子供の視点で見ることが忘れられている。緑が多いことは自然景観にはよいが、潅木に遮られて子供の視界は狭くなる。公園に緑が多いと、犯罪の温床にもなる。
高齢者の地域デビュー
元気な高齢者が増えている。ビジネスの第一線、役所、あるいは自営業で活躍した人は後進に道を譲った後、それまでに培ったノウハウ、経験を活かすべきで、それを眠らしてはもったいない。しかし、それは全国的にみると、十分には行なわれていない。 多摩地区には学歴の高い人が住んでいる。所得も概して高かった傾向にある。社会で活躍された方々が地域でデビューすることになるわけだが、具体的にやるとなると気をつけなければいけないことがある。 地域社会と会社では運営方法が正反対ということがある。会社で培った経験を活かそうとしても、下手をすると、つまはじきされる。会社、役所はタテ型社会だ。考えが違っても、上司に従う。警察はその典型だ。 自治会、町内会、市民活動団体はヨコ型社会だ。タテ型社会は処遇され、給料をもらっているが、ヨコ型社会はボランティアで仕事をしても手当てはもらっていない。首長は選挙で市民に信任されており、職員は命令を遂行しなければならない。タテ型社会であり、トップダウンは当然ありえる。 一方、NPO法人、自治会長は基本的に手当てがない。ヨコ型社会であり、問題の処理には合意形成が重要だ。話し合いを重ねていくと、何かを決めるにも時間がかかるが、タテ型社会ではないことをわきまえておく必要がある。 地域デビューに際しては、自分から汗をかくことが大事で、例えば会議場でイスを並べることもやらねばならない。
補完性の原理原則
一人では生きられない社会であり、いろんな人の世話になっている。一次的には家族で補うが、家族でできないことはコミュニティが補完する。行政まかせにせず自分たちでできることは自分たちでやる。長野県では草刈、道普請は自分たちでやり、必要な資材は行政からもらうといった事例がある。 これからの地域社会は、ひとつは役所、社会福祉法人といった公益セクターが担う。ふたつめは個別企業、経済団体といった企業セクター、三つ目が個々の市民と市民団体という住民セクター、合わせて六つの主体が共同して地域をよくすることに責任を持つ。それぞれに特徴があり、無理のない範囲で、特技・強みを活かしながら地域づくりを進める。 コミュニティ・ビジネスと地域通貨 地域に必要なビジネスは、地域の人々が起業する。コミュニティ・レストランでは地域の人々が交流を深める。NPO、個人グループで経営したり、食事の配達、介護用品の貸し出しを行なったりしている。利益は地域に還元している。 誰かが誰かをサポートするのは結構だが、される側には気兼ねも生じる。そこで地域通貨が生まれる。高田馬場辺りで使われているのはアトム通貨で、裏書する小切手型だ。地域通貨のやりとりには相場がなく、2人で話し合う。そこにコミュニケーションも生じる。各地に地域通貨がつくられ、地域では流通し、ちょっとした頼みごとがしやすくなっている。これも助け合いのコミュニティづくりに役立っている。 まとめ 欧米ではコミュニティ活動が盛んになっている。地域で尊敬される人は、ウイークデイには自分の家でもないのに家の人に代わってペンキをぬるような人だ。会社の社長とか部長とかいったことは職業上のことで、個人として地域にどれほど役立っているかという考え方だ。こうした人たちには感謝の言葉を言う。それが、やりがいにもなる。地域活動をうまくやっているところは、そういうところだ。 (文責・川面)